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2025.11.21 AI開発 ad-logos

サブスク事業者は解約予測をAIで行うべきなのか?実際のデータをもとに解説

0. 結論

サブスクリプション事業者は解約予測をAIで行うべきという結論に至りました。

当然、様々な仮定や変数によって結果は変わってくるのですが、本シミュレーション(10,000顧客を想定)によれば、AI予測を用いて解約防止策(割引クーポンや特典など)を打つ戦略は、 +768万円の利益改善をもたらしました。

これは、何もしない場合や、全顧客にクーポンを配る(1,936万円の赤字)といった戦略と比較して、圧倒的に優位な結果となります。

詳細な分析を以下に記述します。

1. 分析の目的:サブスクの解約に対する課題

サブスクリプションビジネス(SaaS、D2C定期便、携帯キャリアなど)において、顧客の解約(チャーン)は最大の経営課題の一つです。解約は、単月の売上減少に留まらず、その顧客が将来にわたって生み出すはずだったLTV(顧客生涯価値)の喪失を意味します。

そこで注目されるのが「AIによる解約予測」です。 これは、過去の顧客データ(利用頻度、購買履歴、サポートへの問い合わせ、Webサイトの閲覧行動など)をAIが学習し、「Aさんは今後30日以内に解約する確率80%」「Bさんは5%」といった形で、顧客一人ひとりの未来のリスクを可視化する技術のことです。

なぜAI予測が重要なのか?
それは、解約防止策には必ずコスト(割引、特典、人的なアプローチなど)がかかるため、企業は常に「コストとリターンのジレンマ」に直面するからです。

本分析の目的は、この3つの戦略をシミュレーションし、AI(パターンC)の導入が経営的にどれだけ合理的かを明らかにすることです。

  • パターンA:何もしない
    • → 防げたはずの解約により「機会損失」が発生する。
  • パターンB:全顧客に施策を打つ
    • → 解約は一番防げるが、解約するつもりのないロイヤル顧客にもインセンティブを配ることになり、「施策コストの無駄撃ち」が発生する。
  • パターンC:AIで予測して施策を打つ
    • → 解約確率が高い顧客にだけコストを集中投下する。AI導入、運用に費用がかかる。

2. 分析の前提について

携帯電話回線の顧客データ(KaggleのTelco Customer Churn)を対象とし、解約予測シミュレーションを行う。

  • 顧客数想定: 10,000人(中規模事業を想定)
  • 実解約率: 26.55%(3か月間で解約する割合、データセットからランダムに抽出された2割のデータに基づく)
  • 解約による逸失利益: 1人あたり 218,700円
    • 注1:解約顧客がもし継続していた場合の平均的な将来価値。データセットにおける、「(継続顧客の平均期間 37.6ヶ月)-(解約顧客の平均期間 18.0ヶ月)」×(解約顧客の平均月額 74.44ドル)として算出。
  • 解約防止の施策コスト: 1人あたり 6,000円
    • 注2:強力なインセンティブと仮定。例えば「(D2Cなら)次回配送料の無料化と人気商品のサンプル(6,000円相当)」「(携帯なら)今後3ヶ月間の月額料金から2,000円割引」「(SaaSなら)上位プランの2ヶ月無料開放」などが該当する。
  • 施策の成功率:7%
    • 注3:施策を打った今後3カ月の解約予定者のうち、7%が解約を思い留まると仮定。

3. 3つの戦略

今回は以下の3つの戦略で分析をしていきます。

パターンA:何もしない(現状維持)

  • 戦略: 予測モデルを使わず、誰にも解約防止策を打たない。
  • 結果: 解約率(26.55%)に従い、2,655人が解約。逸失利益が発生するが、これをROIの基準(0円)とする。

パターンB:全顧客に施策を実施

  • 戦略: AIを使わず、対象顧客10,000人全員に防止策(6,000円のクーポンなど)を実施する。
  • 狙い: 「見逃し」をゼロにする。

パターンC:AI予測モデルを活用

  • 戦略: AIモデルで「解約しそうな顧客」だけを予測し、その顧客にのみ防止策(6,000円)を実施する。
  • AIの能力: 使用するAIモデル(Qiita記事のベースラインモデル)は、以下の性能を持ちます。
    1. 発見力 (Recall): 本当に解約する人のうち 77% を見つけ出す。
    2. 的確さ (Precision): AIが「解約する」と予測した人のうち 52% は、本当に解約する。

4. 期待収益の計算ロジック

期待収益は、「何もしない(パターン0)」を基準(0円)とし、各戦略がどれだけ収益を改善または悪化させるかで評価します。
この計算ロジックは、パターンBとパターンCの両方で、施策対象となった顧客のコスト対効果を計算するために使用されます。

A. 施策対象が「実際の解約者」だった場合

  • アクション: 施策(6,000円)を打つ。
  • 期待収益:1人あたり +9,309円
  • 計算:逸失利益(21.8万円)を守ることに7%成功する。              {(218,700 – 6,000)  ×7% }+ ( -6,000 × 93% ) = +9,309円

B. 施策対象が「実際の非解約者」だった場合

  • アクション: 施策(6,000円)を打つ。
  • 期待収益1人あたり -6,000円

C. 施策の対象外だった場合

  • アクション: 何もしない。
  • 期待収益0円

5. 結果と考察

5.1 結果

3つの戦略(「A. 何もしない」「B. 全員に施策」「C. AI活用」)で、期待収益を試算した結果、以下のように利益(または損失)に極めて大きな差が生まれました。

画像

5.2 パターンB(全員に施策)の計算過程

「全員に施策」戦略は、-1,935万円という巨額の赤字になります。この計算過程は以下の通りです。

  1. 対象顧客(10,000人)の内訳:
    • 解約者: 2,655人(10,000人 × 解約率 26.55%)
    • 非解約者: 7,345人(10,000人 – 2,655人)
  2. 利益(解約者への施策): 解約者(2,655人)全員に施策(期待収益 +9,309円/人)を実施し、2,655人 × 9,309円 = 2,471万円となります。
  3. 損失(非解約者への施策): 非解約者(7,345人)全員に施策(期待収益 -6,000円/人)を実施し、7,345人 × (-6,000円) = -4,407万円となります。
  4. 合計ROI: 2,471万円 – 4,407万円 = -1,936万円となります。

結論:施策によって得られる利益(+2,471万円)よりも、「無駄撃ちコスト」(-4,407万円)が遥かに上回るため、合理性のない戦略となります。

5.3 パターンC(AI活用)の計算過程

「AI活用」戦略は、+768万円の利益を生み出します。AIは顧客を「施策対象」と「対象外」に仕分けます。その計算過程は以下の通りです。

  1. 利益(解約者への施策)
    • Recall=77%ということから、実際の解約者のうち77%をAIが発見できることがわかります。
    • 施策された解約者数:2,655人 × 77% = 2,036人
      • → 施策を実施(利益): 2,036人 × 9,309円 = 1,895万円
  2. 損失(非解約者への施策)
    • Precision=52%ということから、AIは、 2,036人 / 52% = 3,915人を「解約する」と予測することがわかります。
    • この予測(3,915人)と、ステップ1の結果(解約すると予想された解約者数=2,036人)を使い、非解約者(7,345人)の仕分けを計算します。
    • 施策された非解約者数: 3,915人(予測総数) – 2,036人(解約者) = 1,879人
      • → 施策を実施(損失): 1,879人 × (-6,000円) = -1,127万円
  3. 合計ROI:1,895万円 – 1,127万円 = 768万円

結論:「全員に施策」で発生していたはずの無駄撃ちコスト(-4,407万円)を、-1,127万円にまで圧縮(約74%削減)し、同時に利益(+1,895万円)を確保したため、768万円の利益となりました。

6. 結論

このシミュレーション結果は、AIモデル(パターンC)の導入が、「何もしない(パターンA)」場合と比較して +768万円 の利益改善効果をもたらすことを示しています。

したがって、 「AIモデルの導入・運用コスト(開発費、サーバー代、人件費など)が、1回の予想あたり768万円を下回る」 のであれば、AIモデルの導入は経営的に合理的かつ有益な投資であると結論付けられます。

ただし、本分析は、セクション2で定義した「仮定」の上に成り立っています。

特に、AI導入の採算性は施策の成功率と施策にかける料金に強く依存します。そのため、この試算結果を鵜呑みにするのではなく、AIの本格導入を決定する前に、小規模なA/Bテストを実施し、これらのパラメーターを最適化、予測することが不可欠です。